◆気持ちを飾る 鏡餅
三方(さんぼう)に奉書紙を垂らして敷き、ゆずり葉や裏白(シダ)をのせる。丸くて平たい餅を重ね、その上に橙(だいだい)やスルメ、昆布を飾る…。毎年変わらぬ手順ですが、鏡餅をしつらえていると、いつのまにか心静かに一年の平穏を祈念しているものです。古来より、日本では「八百よろずの神」といって、森羅万象に神々が宿るとされてきました。山や海はもちろん、生活に近いところでは玄関であったり、種々の生活道具であったり…。年が改まる時にあらゆる神様に感謝し、来る一年を幸福に過ごせるようにと願いをかけたのが「鏡餅」の始まり。そこには、日本人ならではの美しい心づかいがあります。
◆「鏡開き」から生まれたお菓子
その鏡餅を神棚から下ろしていただく儀式が「鏡開き」。毎年1月11日には、願いを宿した鏡餅がお雑煮やお汁粉などに姿を変えて、私たちのお腹におさまります。この時、固くなった鏡餅を手で小さくかき砕いて、分配する風習が古くからありました。分け合って食べることで、神様からの祝福を授かろうとしたのです。その餅片は、あぶって焼いてから食べるのが通例。これが「かき餅」または「おかき(御欠)」の由来です。現代人からすると、「おかき」といえばおやつ感覚。そのいただき方も、昔と比べるとはるかに気軽です。サクサクと軽い食感の中にも、こんな来歴が潜んでいるなんて、おかきもなかなか奥深いものです。
◆おかきでおもてなし
さて、年賀のお菓子として、上生菓子なら申し分ありません。しかし、鏡餅にルーツを持つ「おかき」も、睦月にふさわしいお菓子といえるのではないでしょうか。「ぬれ小町」は、秋田県産米を使用したコシのある餅生地をこんがり焼き上げ、甘口の醤油だれをジュッとしみ込ませた”やわらか”おかき。しっとりと半生菓子にも近い食感のおかきは、軽すぎず、正月らしい粛々とした雰囲気も持ち合わせています。見た目は普通のおかきと変わりませんが、お餅のように粘りがあり、もっちりした食感です。朱塗りの盆に懐紙を引き、おかきを盛って水引などを添えれば、年始のお客様のおもてなしにもぴったり。意外性のある食感は、おめでたい話のタネとしてもきっと喜ばれることでしょう。
|